天気を売る仕事は大変だ。
それに気づいたのは、天気屋に転職してから三か月と十日の夜だった。
私はアパートに帰るなり冷蔵庫を開け、ノンアルコールビールを一気飲みしてゲップを大気に放ち、ガジガジと思う存分頭を掻きながら机の上のガラス壜に顔を近づけた。
その中には、私が初めて気象庁から買った天気が入っている。
――五月雨。
細く濡れそぼる内部に視線を上下させ、私は定型文を呟く。
「綺麗だな……」
仕入れ自体は安定している。気象庁から払い下げられたものを買い取る形が約八割で、残りの二割は海外からネットで仕入れる。支払いは月末締め翌月末払いの仮想通貨だから、海外取り引きでも問題はない。どちらかというとお役所仕事の気象庁のほうが、取り引きとしては疲れる。
問題は販売だった。
気象予報会社に売るのはもう諦めた。予報的中率の高さがウリのところは、たいてい自社でいい天気屋を雇っていて今更私は必要ない。気象庁からの依頼があればと、買い取りのたびに担当者にアピールしているが、結局のところ使わないから払い下げなのであって、天気のストックは間に合っているらしい。ネット販売は……、私には天気を分割する力はないので、販売できるような小売りの天気は作れない。もちろん別途分割業者に依頼すればできないこともないけれど、気が進まない。
私は、いつの間にか出ていたため息を空き缶に入れ、手でフタをした。
「……ふふっ、」
こんなのが売れれば最高なんだけれど、現実は厳しい。
ため息天気のとなりの壜は、蛍光灯の光をあびながら水滴を落とし続けている。